輪郭のない風景を服にする Mame Kurogouchi 2026年秋冬「White Out」

山の中で、突然すべてが白く覆われる

湿度を含んだ光の中で山々は輪郭を失い、
目の前にあるはずの景色が、霧の向こうへ静かに滲んでいく

Mame Kurogouchi 2026年秋冬コレクション
「White Out」の出発点にあるのは、デザイナー黒河内真衣子が長野の山で見てきた、そんな風景です

冬の薄氷の向こうに見える植物
早朝の雪の細かな粒子
霧越しに揺れる草花
そして、色と色の境界が溶け合っていく山々

黒河内氏は、この曖昧に広がる景色を洋服の中に閉じ込めるため
さまざまなテクスチャーを生地でつくったと綴っています。

「輪郭を描くのではなく、見えない景色を洋服を通して届ける」

2026年秋冬のアイテムを見ていくと、その言葉がデザインだけでなく、素材の選択や織り、編み、加工のひとつひとつにまでつながっていることがわかります

霧の向こうの草花を、透明な布に

Floral Jacquard Sheer Anorak

MM26FW-JK001

出典:mamekurogouchi公式サイト

まず目を引くのが、ガラスのような透明感を持つアノラック
キュプラとナイロンによる透ける生地、
草花のモチーフが浮かび上がります。

着想源のひとつとなったのは、古くから生活の中で使われてきたプレスガラス

溶かしたガラスを型に流し込んでつくられるプレスガラスには、草花などの装飾が施されたものも多く、そのガラス越しに見るような植物の姿が、朝霧の中に浮かぶ草花の記憶と重ねられています

透けることで、柄だけでなく、生地の重なりや縫い代やパイピングといった、
本来なら服の内側に隠れる構造までが視覚の中に入ってきます

はっきり見えている部分と、その向こうに透けて見える部分

一枚の服の中にいくつもの奥行きが生まれ、
霧の中で近くの植物と遠くの植物が重なって見えるような景色へと変わっていきます

「White Out」の風景を描くのではなく、透けるという素材の性質そのもので、霞んだ視界をつくる。

このコレクションを象徴するアプローチのひとつです

糸からつくり、編み、最後に輪郭を消す

Wool Mohair High Neck Knit Top

MM26FW-KN063

一見すると、柔らかなグラデーションが美しいモヘヤニット
そこに描かれているのは、霧に霞む長野の山々

このニットは、完成した編地に色をプリントして山を描いているのではないこと

まず、濃い緑から白へ。

絵の具を混ぜるように糸の組み合わせを変えて撚糸することで、
糸そのものに色のグラデーションをつくるところから始まります

そして、その糸を「引き返し」という技法を用いて編み、山の稜線を表現

引き返し編みとは、一段を端から端まで均一に編むのではなく、
途中で編む方向を変え、部分的に段数の差をつくる技法

一般には肩の傾斜やダーツなど、ニットを立体的に成形するためにも使われますが、編む範囲や糸を変えることで、斜めのラインや色の切り替えを表現することもできます。

そして、ここでもう一工程

編み上がったニットを、一点一点手作業で起毛する。
起毛することで表面に毛足が生まれ、編み分けられた色と色の境界がぼやけ、異なる繊維が溶け合うように見えてきます。

糸を混ぜる。
引き返しで山の稜線をつくる。
そして手起毛で、その輪郭をもう一度ぼかす

せっかく描いた輪郭を、最後の工程でもう一度曖昧にする

霧の中で山の境界が少しずつ消えていく「White Out」の風景が、糸をつくるところから仕上げまで、服づくりの工程そのものによって表現されています。

二枚の布を重ねて、霧の「奥行き」をつくる

Shimmering Plunge Shirt

MM26FW-SH050

こちらは、一枚の生地ではなく、異なる質感を持つ素材を重ねることで
「White Out」を表現したシャツ
内側にはウールとポリエステルによるボイル生地

タンブラー加工を施し、表面に細かな凹凸と柔らかな表情を与えています

その上に重なるのが、極細のナイロンスパーク糸を使ってジャカードで織り上げた、透け感のある生地つまり、霧の柄を一枚の布にプリントしているのではありません。

質感も透明度も異なる二枚の布を重ねることで、布と布の間に視覚的な距離をつくっている

内側の色が透ける場所
生地が重なって濃く見える場所
タックによってさらに層が生まれる場所

身体が動けばドレープも変わり、見える色の深さも変わります。

一方、袖には外側のジャカード生地のみを使用することで、より直接的な透明感が現れます。

霧そのものを描くのではなく、見る人と風景との間に一枚の膜をつくる。

ガラス窓越しに霞んだ山を眺めたという「White Out」の記憶を、レイヤーという服ならではの方法で表現した一着です。

点描とガラスビーズで、焦点をずらす

Glass Beads Printed High Neck Top

MM26FW-JS071

出典:MameKurogouchi公式サイト

遠くから見ると、山の風景をプリントしたハイネックトップ
近くで見ると、その景色は一種類の表現だけではできていません

まず、長野の山々を点描として描き、生地へプリント

さらにその上にグリッターを重ね、ガラスビーズを配置しています

重なっているのは、二種類の「点」

生地の上に印刷された平面的な点と、実際に生地の表面から立ち上がり、光を受けて輝くガラスビーズという立体的な点

二つが同じ視界の中に入ることで、プリントされた山の像と、その手前で光る粒子との間にわずかな距離が生まれます

どこに焦点を合わせるかによって、景色の見え方が変わる

まるで濡れたガラスや薄氷の向こうにある山を見ているような、焦点の定まらない風景です

ベースとなるのは、身体にしなやかに沿うストレッチ性のあるトリコット
その上で小さなガラスビーズが身体の動きとともに光を拾います。

早朝の雪
空気中の水分
薄氷
霧の粒子

手で掴むことのできないものを、光を受ける小さな粒へ置き換えることで表現しています。

同じ風景を、違う素材でつくる

4つのアイテムを並べてみると、「White Out」というコレクションの面白さがより鮮明になります

透明な布を通して、草花を霞ませる

糸そのものにグラデーションをつくり、編み上げたあとに起毛して山の輪郭をぼかす

異なる二枚の布を重ね、その間に霧のような奥行きをつくる

プリントとガラスビーズという平面と立体の「点」を重ね、視覚の焦点をずらす

同じ「霞んだ風景」を表現するために、すべての服で同じ柄や同じ加工を繰り返していない

透ける。
重なる。
滲む。
毛羽立つ。
光る。

素材がもともと持っている性質と、そこに加えられる織りや編み、加工の技術

その組み合わせを変えながら、ひとつの風景へと近づいていきます

「何が描かれているか」だけでは見えてこないもの

Mame Kurogouchiの服を見るとき、花や植物、山といったモチーフに目が向きます

けれど、その背景にあるストーリーを知り、さらに素材やつくり方まで辿っていくと、別の見え方がしてきます

なぜ、この服は透けているのか

なぜ、モヘヤを起毛させるのか

なぜ、一枚ではなく二枚の布を重ねるのか

なぜ、プリントの上にガラスビーズを置くのか

それらは装飾のためだけに選ばれたものではなく、「White Out」で黒河内真衣子が見た風景へとつながっています

霧の中で山の輪郭が消えていく瞬間

薄氷の向こうに見える植物

ガラス越しに見る、触れることのできない景色

過去の記憶と今見ている景色が重なる感覚

輪郭を描かずに、風景を描く

2026年秋冬のMame Kurogouchiでは、そのための素材と技法そのものが、コレクションの物語を語っています

今シーズンもまた深く好きになってしまうマメクロゴウチです

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