#DAY 2021.06.20
6月も後半に差しかかった第三日曜日。
私は「10 Mame Kurogouchi」展を開催中の長野県立美術館へ向かった。
結論から言うと、行ってよかった。その一言に尽きる。
展示内容や展示室の規模など、詳細の把握もそこそこに出かけたのだが、この上なく満足している。
2011年春夏のファーストコレクションから、2020年秋冬コレクションまで、
デザイナー黒河内真衣子の創作の起点、その驚くべき発想の源が、創作の手法が、そこに垣間見える。
10周年を迎える本年、タイムリーにUNIQLO(ユニクロ)とのコラボレーションで大いに話題になっているMame Kurogouchi。
気になっている人は、ぜひ、展覧会に行ってみるべき。
きっと、マメクロゴウチというアパレルブランドの今後に、もっとワクワクするだろう。
#夏を感じる朝に
私が住む新潟県からは、高速バスで3時間半ほどの旅だ。
午前7時、自宅前で朝の空気を吸い込む。
日曜日の朝にまだ人の姿はなく、澄んで少し濃い酸素をとりこんだようで頭が冴えてくる。
今朝は、昨日の雨が嘘のように日差しがたっぷりと降り注いでいる。
濡れたアスファルトがキラキラと陽光を反射して、
そのまっすぐな光の強さに、すでに太陽が高いことを知る。
見上げると薄い青色の空、遠くに入道雲。「あぁ、夏だなあ」と季節を感じた。
3時間半のバス移動は、特に苦にはならない。
眠ってもいいし、スマホがあれば、やっぱり何でもできる。
読みかけの電子書籍を片付けるには絶好の機会だ。
しかも高速バスは座席一つ一つにコンセント付きだから、スマホの充電だってできる。
ありがたい文明よ。難点はやたらと身体を伸ばせないことくらいしかない。
途中に一度、米山サービスエリアで休憩をとるので、ここで思いっきり伸びるとしよう。
バスのドアが開くと、喫煙スペースに移動していく同乗者たち。意外と喫煙者が多かったらしい。
外は涼しく、気持ちが良い。出発時間までぶらぶらと外を散歩する。
15分後、バスは長野に向かい再び走りだした。
11時を少し回ったころ、長野駅前でバスを降りた。
…私の記憶にあるの長野駅は20年くらい前の姿だろうか。すっかり変わりましたね、長野駅前。
2015年の北陸新幹線金沢延伸からの開発プロジェクトで、
駅と駅ビル(MIDORI長野)が全面的にリニューアルされたんですよね。
はじめてお邪魔しました。きれい~。
美術館に直接向かうなら、高速バスの終点 権堂 まで行ってもよかったのだが、長野駅も見ておきたかった。
近いうちにまた遊びにきましょう、長野。
さて、あまりうろうろしていては目的地にたどり着けない。
30分はかからないし、歩いていこうか。いや、やっぱりタクシーに乗ろう。この間約2秒。
今日、ここに滞在できる時間は限られている。言い訳ではない、断じて。
タクシーの運転手さんと「お隣だけど意外と行き来しないよね~、新潟市内までは特に遠いしね~」
「ですよね~、新潟って縦に長いですよね~」なんて、特に盛り上がらないトークをすること数分、
名所として知られる高台の桜並木を上がっていくと、長野県立美術館へと到着したのであった。
#長野県立美術館
昭和41(1966)年に「長野県信濃美術館」として開館、「東山魁夷館」開館は平成2(1990)年。
本館は、平成28(2018)年に開館50周年を迎え、翌年の平成29(2017)年から建替工事のため休館。
令和3(2021)年4月10日、再開館を機に「長野県立美術館」として再出発した。
館長の松本透氏は、“人と人が-芸術家を中心に-出会い、語り合い、学び合う場となるような美術館を目指す”と語っている。
>長野県立美術館-館長挨拶
この美しい美術館(本館)を設計したのは建築家の宮崎浩氏。
善光寺と東山魁夷館という二つの建物、長野の自然の中に溶け込むよう、そっと新しい美術館を置こうと思ったそう。
「ランドスケープ・ミュージアム」のコンセプト通り、空や山々が映り込むガラス張りの建物は、見事に風景と一体化している。
本館は地下1階から地上3階、東山魁夷館は1階と2階から成り、両館は2階の連絡ブリッジで繋がっている。
連絡ブリッジの下には水辺テラスがあり、常設展示「霧の彫刻」をみることができる。
噴出される霧は神秘的で、ガラス張りの連絡ブリッジに立っていると、真っ白な世界にひとりきりになったような不思議な感覚に。
外の水辺テラスでは実際に霧に包まれることも可能。
この日も、気温が上がってきたこともあり子供連れのお客さんがそこに集まっていた。薄く、濃く、押し寄せる霧に子供たちも大喜び。
敷地内は芝生もあるし、ベンチもあって、なるほど、公園として地元の方のお散歩コースにもなっているようだ。
ちなみに霧の彫刻、濡れますよ もちろん。霧なんで。楽しむ際にはお気をつけて。
長野県立美術館はチケットレスで利用できる無料ゾーンも充実している。
善光寺が望める屋上広場「風テラス」、3Fのカフェ 「Shinano Art Café」、2Fのレストラン「ミュゼ レストラン 善」、
アートライブラリー、1Fのミュージアムショップ等々があり、ほかにもフリーゾーンが多く“散歩できる”美術館として気軽に立ち寄れる。
美術館に入るのは無料で、企画展・コレクション展を観るときに初めてチケットを購入すればよい。
洗練された館内はじっくりと1日かけて見て回りたい。今日は3階から入館し、館内を少し散策した後にそそくさとお目当てのマメ展へ向かう。
本館2階のカウンターへ。おっと、受付に黒河内真衣子氏デザインの制服を身にまとったスタッフさん。
素敵~!ロングドレス襟元のカッティングは一目でわかる、Mame Kurogouchiカット。
ジャケットはノーカラーデザインで、ドレスの襟と美しく重なる比翼仕立てのダブルブレスト。
黒に近い濃紺で襟もとには長野県花のリンドウが刺繍されたスカーフが添えられて。
いいなぁ。これがユニフォームだなんて。羨ましい、すごく。と羨望のまなざしを投げかけつつチケットを購入。
いざ。
10 Mame Kurogouchi
会期:2021年6月19日(土)~2021年8月15日(日)
休館日:水曜日
開館時間:9:00~17:00(展示室入場は16:30まで)
観覧料:一般500円、高校生以下または18歳未満無料
(東山魁夷館との共通観覧料 一般800円)
会場:展示室3
#黒河内真衣子と10のキーワード
Mame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子さんはこの美術館のある、長野県出身である。
この地の自然や伝統、過ごした記憶や経験など様々なエッセンスは間違いなく、彼女の一部だ。
私自身は、特に自分の故郷に強く愛着を持っているわけでないと思うが、
それでも年を重ねると ふと故郷を、昔過ごした地を懐かしく感じることがある。
そこで静かに向き合ってみれば、無意識に朝を感じるにおいや季節を知る植物の種類、気分転換にむかう場所…
きっと、私をかたちづくる要素に、沢山の影響を与えているのだろうと気づく。
黒河内さんも生まれ故郷であり、自身のルーツであるこの土地にクリエイションの原初があるのだろう。
「10 Mame Kurogouchi」では、マメというブランドの10年間に共通するいくつかのキーワードをその地で追想することができる。
展示は「10のキーワード」に分けられ、コレクションルックの展示ももちろんあるのだが、10年の時間軸を超えてキーワードに沿った展開になっている。
「10のキーワード」
・ノート – 〈Mame Kurogouchiの10年を長野で辿る〉
・曲線 – 〈10 Mame Kurogouchi「10のキーワード-曲線」と写真家 野田祐一郎〉
・刺繍 – 〈10 Mame Kurogouchi「10のキーワード-刺繍」記憶の中の再現〉
・長野 – 〈10 Mame Kurogouchi「10のキーワード-長野」2つの融合〉
・色
・クラフト
・私小説
・夢
・テクスチャー
・旅
各キーワードにはそれぞれ着想源となった品やモチーフ、書籍や資料と共に、Mame Kurogouchiのコレクションアイテムを纏ったマネキンが並ぶ。
もちろんすべてのキーワードが色濃い。しかし、何を感じるかは、その時々で異なるだろう。
私はこの日感じたことの一部だけをここに記録しておこう。キーワードごとの記録はまた別の機会に。
展示室の入り口から、入るとすぐに見えるのが、2019年春夏のコレクション「The Diary」のルックアイテム。
そして展示室の中央、手前から奥へ。まっすぐにケースが置かれている。
中に展示されているのはノートの見開き360ページ。
そこにはすべてが詰まっていた。
黒河内さんはブランドの創設時から、1シーズンに1冊のノートを作っている。
単行本くらいの大きさのノートだ。
ここにデザイン案やデッサン、取材のメモ、夢の記録、日記、急いで書き留めたであろうインスピレーションの欠片。
じっくりと、一通り中央ケースのノートをのぞき込みどのくらいの時間がたったのだろう。おそらく1時間くらいか。
ノートから辿る旅路は時間を、場所を、現実を、個人を飛び越えて、
デザイナー黒河内氏の脳内を少し覗き見たような気持ちになる。
もちろんこれは、彼女だけが糸を手繰り寄せることができ、他人が見てもMame Kurogouchiを作ることはできない。
しかし、出来上がったコレクションと共に追想することで彼女の通った道筋がぼんやりと見えてくるのだ。
濃密な心理の海に潜るような体験ができた。
後ろ髪を引かれながら展示から遠ざかる。
この日の長野県滞在のタイムリミットが迫っていた。
ちなみに、「10 Mame Kurogouchi」では、中央ケースだけは、写真撮影が禁止されている。
というか、美術館の中って、展示されてる作品って、そもそも写真パシャパシャ撮ってもいいのか?
近年は、美術館や博物館で展示作品の撮影を許可するケースが日本でも増えている。
モナリザだって、撮影できちゃうものね。
※世界的には、ロンドンの大英博物館やパリのルーブル美術館などでは作品の撮影が許可されている。
企画展示など一部を除く。また、館によってルールが異なるため、適宜確認が必要。
ようやく時代の変化に対応しているんですな。
とはいえ、静かに作品を楽しみたい方にとってはシャッター音が気になったりもする。
周囲への配慮を怠らないように、楽しみましょう。
と、脱線したが、長野県立美術館は一部を除き写真撮影が可能。
先に書いたように、マメ展では中央ケースのノート以外は、すべて写真撮影OKの展示だ。
この展覧会「10 Mame Kurogouchi」の作品集が7月に発売される。
“読む展覧会”ということで、こちらも楽しみ。
本館1Fのミュージアムショップで作品集を予約してきた。
最後に、ノートの展示から私が印象に残ったフレーズをいくつか記録して、〆たいと思う。
「素敵な女性と出会えると大人なってよかったなぁと思う」
「三越へお直しへ
最近は毎回お直しに出さないと私には大きい私のブランド」
「私が地球に包まれている
籠が草になって その上で踊っている」
「漁師さんは自分の漁場と同じ色で網をオーダーする
赤 きんき きんめだい かに 深海魚
自分と同じ色 魚のドレス」
“Mame Kurogouchiの服は実際に見て、触って、オーダーしてもらいたい”そう先日のブログでも書いたが、
このマメ展もぜひ、実際に訪れて、自身の目からMame Kurogouchiのクリエイションを、黒河内真衣子の感性を享受してほしい。
「目は冷たいのに身体は暖かい」長野の冬の香り